俺の呪いが君だった。

俺の呪いが君だった。

死体処理専門の二級術師、傀儡呪詛師

「やっぱ眞尋のこと、好きだなぁ」

斧を振っていた手が止まる。思わず動きが止まって、ブリキのようにギギギと覚束ない動きで死体処理の術師こと、露鐘眞尋は振り返る。そこには満面の笑みを浮かべた死体使いの術師、茅瀬遥がいる。

「...ずいぶん、突拍子もないな」

「ごめん、ふとそう思っちゃって」

そう言って、腐敗しかけた死体をふよふよと浮かせ、遠くへ投げ飛ばす。呪力操作が上手くいっていないのだろう、その顔は青白く、髪の色と相まっていっそ病人だ。

「おい、あんま無理するな」

「やだよ、眞尋に追いつきたいし」

「...今同じ二級じゃん」

「眞尋を守れるくらいがいいの」

飛ばされた死体に駆け寄りながら、茅瀬は言葉を発した。長い髪から見える墨汁色の双眸が露鐘を見つめる。端正な顔で見つめられ、露鐘はそっと目を逸らした。

「...術師に守るも守らないも、ないだろ」

「あー...まーね。確かに俺らは自分の身を自分で守らなきゃいけない」

「そうでしょ?だったらそういうのはー」

「だから俺が守りたいのは、眞尋の心だよ」

振りかぶった斧がすぽん、と抜け、くるくる回りながら大きな音を立てて幹に突き刺さる。呆然として口を開けて、ぽかーんと間抜け面を浮かべた。

はっきり言おう、露鐘は動揺している。

たった3人しかいない同期で、女子は自分だけ。信頼してるし、信用もしてる大切な仲間だ。ただ、今この場にいるのは茅瀬と露鐘の2人。もう1人はコーラを買いに行ってしまっている。

(...どう答えればいい?)

年頃の思春期、やはりこう言った発言にはドギマギするもの。どれだけ達観して死体を見ていても露鐘もその1人であったし、術師である以前に幸福を望む1人の女の子でもあった。

「...変な空気にさせちゃったかな」

茅瀬が此方に向かって歩いてくる。そうして俯いた露鐘の顔を覗き込んで、柔らかに微笑む。

「...どう答えれば、いいか、分からなくて」

「そうなの?眞尋にしては珍しいね」

「...珍しく、ないだろ」

ぽっ、と顔を紅潮させて、露鐘は目を逸らして斧を取りに行く。そんな拗ねたような態度に、茅瀬は笑う。

「照れてる?可愛い〜」

「うるっさいな、もう」

あはは、と笑い声をあげて、また死体を浮かせて呪力操作を開始する。風の切る音にまた振り向いて、鍛錬を行う露鐘を見てまた一言。

「うん、やっぱり眞尋が好きだ」

確認するように反芻して、露鐘を見つめる。その目は慈愛と欲の混じった、年相応の目をしていた。


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